この記事の著者
【氏名】伊藤たえ（脳神経外科医）
【経歴】
2004年3月 浜松医科大学医学部卒業
2004年4月 浜松医科大学付属病院初期研修
2006年4月 浜松医科大学脳神経外科入局
2013年7月 河北総合病院 脳神経外科 勤務
2016年9月 山田記念病院 脳神経外科 勤務
2019年4月 菅原脳神経外科クリニック 勤務
2019年10月 医療法人社団赤坂パークビル脳神経外科
菅原クリニック東京脳ドック 院長
【専門】
日本脳神経外科専門医 日本脳卒中学会専門医
【資格・免許】
医師免許
頭を強くぶつけると、骨が折れたり脳が傷ついてしまったのではないかと心配になりますよね。
頭のケガで意識をなくしたり、吐いてしまったり、ひどい頭痛がした場合は、直ぐに病院を受診すると思います。
でも、そんなに強くないケガなら、特に病院にも行かずに様子を見て、数日でケガをしたことを気にしなくなってしまうでしょう。
今回解説する慢性硬膜下血腫は、頭部のケガのあと、1～3ヶ月たってから、頭の中に血が溜まってくる病気です。
きっかけとなるケガは軽い打撲のこともあり、ケガした事自体忘れてしまっていることもあります。アルコールが入っていたりすると、特に記憶がないことも。
頭の中に血が溜まると、徐々に脳を圧迫して、頭痛や脱力感、意識障害などの症状が現れます。
血の塊を血腫と呼びますが、その血腫が増えてしまうと、手術をしなくてはならなくなります。
通常は手術で元通りに元気になりますが、血腫を放置してしまうと命に関わることもあるので、病気について理解しておきましょう。
慢性硬膜下血腫とは
脳は、外から順に皮膚、骨、硬膜、くも膜によって守られています。
硬膜下血腫とは名前の通り、硬膜の下、つまり硬膜とくも膜の間に、血腫ができる病気です。
硬膜下血腫には、外傷後すぐに生じる急性硬膜下血腫と、今回お話しする慢性硬膜下血腫があります。
急性硬膜下血腫は緊急性の高い病態で、生命の危険が伴うもので、慢性硬膜下血腫とは病態が異なります。
急性硬膜下血腫については、また違う機会にお話ししたいと思っております。
慢性硬膜下血腫は、受傷後1～3ヶ月で発症することが多いですが、アルコールをよく飲む人や高齢者に多いため、ケガをした記憶がないこともよくあります。
頭痛、歩行障害、認知機能障害、麻痺などの症状が現れます。脳卒中や認知症と間違われることもあります。
穿頭ドレナージ術という手術を行うことによって、後遺症なく治ることが大半です。
慢性硬膜下血腫の病態
慢性硬膜下血腫は、軽いケガによって硬膜下に、わずかな出血が起こることで始まります。
そこに被膜が形成されるのですが、その膜は血管が多く、出血しやすく、しかも固まりにくい状態になっています。
出血を繰り返すことによって、硬膜下に血がたまって行き、血腫が大きくなっていきます。
血腫が大きくなると、脳を圧迫するため、頭痛がしたり、脳の機能を傷害し、認知機能障害や、歩行障害、麻痺などの症状を引き起こします。
この血腫は固まりにくい性質をもっており、慢性硬膜下血腫の血腫はさらさらしていますので、小さな穴を骨にあけることで、血腫を排出することができます。
慢性硬膜下血腫になりやすい人
もともと硬膜下にスペースが開いている人ほどなりやすいため、ご高齢者に多いです。
アルコールをよく飲む人にも起こりやすいと言われてます。アルコールを摂取しすぎると脳が萎縮しやすいのも影響しています。
血をサラサラにしたり、固まりにくくする薬を内服している人にも生じやすい病態です。
通常は若い人に起こりにくいのですが、若い人でも低髄圧症候群になっている人は、なりやすい傾向にあります。
乳幼児にも起こることがあるのですが、別の病態と考えられています。
慢性硬膜下血腫の症状
慢性硬膜下血腫の血腫は徐々に大きくなっていくため、血腫ができていても、はじめのうちは症状が出ません。
初期の訴えとして、頭痛が多いですが、まったく頭痛を伴わない人もいます。
認知障害で発症する人もいますが、通常の認知症より急速に進行します。
麻痺症状や歩行障害など脳卒中と同様の症状で発症する人もいます。
認知症、正常圧水頭症、脳卒中、脳腫瘍などのよく似た症状を引き起こす病気との鑑別が重要になります。
慢性硬膜下血腫の治療
慢性硬膜下血腫の血腫はさらさらとした液体なので、その液体を抜くことで治療します。血腫の中に細いチューブを入れて、外に血を流し出します。
この手術を穿頭血腫（せんとうけっしゅ）ドレナージ術といいます。
慢性硬膜下血腫の手術は局所麻酔で行われます。1週間程度の入院ですので、脳神経外科の手術では短い手術となります。
具体的には、血腫のある場所の頭皮を4㎝程度切り、その下の骨に10円玉程度の穴をあけ、硬膜を切って、血腫を破って血を抜きます。
通常は細いチューブを血腫内に入れて、一晩程度かけて血腫が自然に出ていくようにします（ドレナージ術）。
ゆっくりたまった血を急に抜くと、脳への刺激になるため、廃液には一晩かけることが多いです。
症状がなく見つかった場合（無症候性）は、薬で経過観察をすることもありますが、症状が出たときには、通常速やかに手術を行います。
手術により、症状は消失し、元通りになることが大半ですが、1割くらいの人で再発すると言われています。
再発しても内服薬で改善することもありますが、再手術となる場合もあります。
まとめ
慢性硬膜下血腫は、軽微な外傷後、1～3ヶ月後に頭に血がたまってきて、頭痛や歩行障害などの症状が出る病気です。
認知症や脳卒中と誤解されやすい症状のため、適切な診断が必要です。
比較的簡単な手術で改善しますので、疑わしい時はすぐに脳神経外科を受診しましょう。
参考
病気が見える vol.7 脳・神経 メディックメディア