この記事の著者

【氏名】伊藤たえ(脳神経外科医)

【経歴】
2004年3月 浜松医科大学医学部卒業
2004年4月 浜松医科大学付属病院初期研修
2006年4月 浜松医科大学脳神経外科入局
2013年7月 河北総合病院 脳神経外科 勤務
2016年9月 山田記念病院 脳神経外科 勤務
2019年4月 菅原脳神経外科クリニック 勤務
2019年10月 医療法人社団赤坂パークビル脳神経外科
菅原クリニック東京脳ドック 院長

【専門】
日本脳神経外科専門医  日本脳卒中学会専門医

【資格・免許】
医師免許

最近、若い世代の女性で「耳の不調」を訴える方が増えています。

「耳が詰まった感じが取れない」「自分の声がこもる」「低い音が聞こえにくい」

そんな症状が続くことはありませんか?

こうした症状の背景には、「低音障害型感音難聴」という病気が隠れている場合があります。

「難聴」というと高齢の方の病気という印象を持たれがちですが、この病気は働き盛りの20〜40代、特に頑張り屋の女性に多く見られます。

「疲れのせいかな」「風邪の影響かも」と我慢してしまう方も少なくありませんが、早めに受診し、適切な治療を受ければ多くの場合は回復します。

今回は、この病気の特徴や原因、治療法についてわかりやすく解説します。

低音障害型感音難聴とは?

名前のとおり、「低い音」が聞こえにくくなるタイプの難聴です。

人の耳は高音から低音まで幅広い音を感じ取りますが、この病気では特に125〜500Hz程度の低音域の感度が下がります。

多くの方が「耳が詰まる」「ボワーンとする」「水の中にいるような感じ」と表現します。

急に発症することが多く、「朝起きたら耳が変だった」というケースも少なくありません。

原因として考えられていること

内耳のむくみ(内リンパ水腫)

内耳(ないじ)は、音を感じ取る「蝸牛(かぎゅう)」や、平衡感覚を司る「三半規管」などから成ります。

その内部にはリンパ液が満たされていますが、何らかの理由でこの液体が増えると内耳がむくみ、音の伝わりに支障が出ます。

この状態を「内リンパ水腫(ないりんぱすいしゅ)」と呼び、低音の聞こえに特に影響しやすいとされています。

ストレスや自律神経の乱れ

精神的ストレスや睡眠不足が続くと、自律神経のバランスが乱れ、内耳の血流が悪化します。

特に女性はホルモンの変動の影響を受けやすく、症状が出やすい傾向があります。

風邪や感染後

上気道炎やウイルス感染のあとに発症することもあります。

体の疲労が重なったタイミングで内耳の圧が変化し、耳の不調として現れる場合があります。

早期治療がカギ!

「耳が変だけど、そのうち治るかも」と放っておくのは禁物です。

低音障害型感音難聴は早期治療で改善しやすい病気ですが、発症から1〜2週間以内に治療を始めることがとても重要です。

少しでも異変を感じたら、できるだけ早く耳鼻咽喉科を受診しましょう。

主な治療法

薬物療法

・浸透圧利尿剤:内耳にたまったリンパ液の排出を促し、むくみを改善します。

・循環改善薬:内耳の血流をよくし、神経への栄養を補います。

・ステロイド剤:難聴の程度が強い場合や回復が遅い場合に、炎症を抑えて聴力の回復を助けます。

・ビタミン剤:内耳の神経の働きをサポートします。

生活習慣の見直しと休息

薬で一時的に症状が改善しても、原因となったストレスや疲労を放置すると再発しやすくなります。

十分な睡眠、規則正しい生活、そして意識的な休息が治療の一部です。

特に再発を防ぐためには、ストレスと疲労のコントロールが欠かせません。

  • 夜更かしを避け、6〜7時間の睡眠を確保
  • 寝る前のスマホ操作を控え、リラックスできる環境を整える
  • 信頼できる人に悩みを話す
  • 趣味やリフレッシュの時間を意識的に取る
  • ウォーキングなどの軽い運動で血流を促す
  • 体を冷やさず、こまめに水分補給を行う

これらの積み重ねが、再発を防ぐ最良の予防策となります。

最後に

低音障害型感音難聴は、「頑張りすぎている」あなたへの体からのサインかもしれません。

現代社会で、仕事や家事、育児などに追われる20〜40代の女性は、知らず知らずのうちに心身に負担をかけています。

ストレスや疲労が続くと自律神経が乱れ、内耳の血流やリンパの流れが滞りやすくなるのです。

そのため、この病気が「ストレス性難聴」と呼ばれることもあります。

真面目で責任感の強い方ほど、無理を重ねやすい傾向があります。

「このくらいなら大丈夫」と我慢せず、少しでも異変を感じたら耳鼻科専門医に相談してください。

早期に治療を受け、そして生活を整えることで、この不調はきっと乗り越えられます。

あなたの体の声に、少し耳を傾けてみてください。

その一歩が、健やかな毎日への第一歩になります。

参考文献

日本耳鼻咽喉科学会 編『耳鼻咽喉科・頭頸部外科学 第5版』金原出版, 2020.