この記事の著者

【氏名】伊藤たえ(脳神経外科医)
【経歴】
2004年3月 浜松医科大学医学部卒業
2004年4月 浜松医科大学付属病院初期研修
2006年4月 浜松医科大学脳神経外科入局
2013年7月 河北総合病院 脳神経外科 勤務
2016年9月 山田記念病院 脳神経外科 勤務
2019年4月 菅原脳神経外科クリニック 勤務
2019年10月 医療法人社団赤坂パークビル脳神経外科
菅原クリニック東京脳ドック 院長
【専門】
日本脳神経外科専門医 日本脳卒中学会専門医
【資格・免許】
医師免許
動物が大好きで、犬や猫と暮らしたい、でもアレルギーがあるから諦めなければ…と悩んでいる方は、実は結構多いのです。
ペットアレルギーの人は、犬や猫に触れたり、近くにいたりすると、くしゃみや鼻水、目のかゆみ、ひどい場合は咳や喘息発作といった症状に悩まされます。
花粉症の人口が増えていることは、皆さん肌で感じていると思います。花粉症と同様に、ペットアレルギーも増加しています。
日本アレルギー学会によると、犬や猫に対するアレルギーは成人の約10〜20%に見られると報告されています。かなり多い数字ですよね。
しかし、アレルギーがあるからといって、必ずしもペットとの生活をあきらめなければならないわけではありません。
正しい知識をもち、正しい対策をとることで、アレルゲンの影響を最小限に抑えれば、ペットと快適に暮らすことも可能です。
今回は、犬や猫に対するアレルギーを持つ大人の方が、ペットと無理なく暮らすための生活習慣や工夫をお話したいと思います。
ペットアレルギーとは?
ペットアレルギーは、花粉症と同じ「Ⅰ型アレルギー」に分類されます。
私たちの体には、外部から侵入する異物を攻撃し、体を守る免疫システムが備わっています。
アレルギー体質の人では、本来無害なはずの犬や猫のフケ、唾液、尿、毛などに含まれる特定のタンパク質を「有害な異物」と誤認してしまいます。
犬や猫のアレルギーは、この異物(アレルゲン)が体内に侵入すると、免疫システムが過剰に反応し、ヒスタミンなどの化学物質を放出します。
このヒスタミンが、くしゃみ、鼻水、目のかゆみといったアレルギー症状を引き起こすのです。

特に猫はアレルゲンの量が多く、粒子も非常に細かいため、空気中に長く漂う傾向があると言われています。
犬は犬種により、アレルゲンの量が違ったり、毛の抜け方が違うため、アレルギーの出やすさが変わることもあります。
症状があっても飼っても問題ない?
アレルギーの症状の重さによりますが、軽度~中等度のアレルギーであれば、環境整備や薬によるコントロールで対応可能なケースもあります。
ただし、以下のような場合は慎重な判断が必要です。
- 過去に重度の喘息発作を起こしたことがある
- アレルゲン曝露でアナフィラキシーの既往がある
- 小児や高齢者、呼吸器疾患のある同居家族がいる

こうした場合は、必ず医師と相談し、十分な対策の上で検討する必要があります。
アレルゲンを減らす生活習慣
アレルギーがあってもペットと暮らすには、アレルゲンをできるだけ避ける生活習慣が基本です。
アレルギーがある人は、以下の対策は特に重要です。
① ペットの入室制限
・寝室にはペットを入れないようにしましょう。睡眠中は長時間アレルゲンにさらされることになるため、症状が悪化しやすいです。
・ペットと一緒に寝るのは絶対にNGです。
・清潔な「アレルゲン・フリーゾーン」を家の中に1か所以上作り、避難場所としましょう。
② こまめな掃除と換気
・できるだけ、毎日、掃除機をかけるようにしましょう。床や家具の水拭きも行いましょう。
・カーテン・ソファ・カーペットなど布製品は、アレルゲンがたまりやすいので、定期的に洗濯しましょう。
・アレルゲンが付着しやすい布製品はできるだけ避け、フローリングや革張りの家具を選ぶことで掃除が楽になります。
・空気清浄機を24時間稼働させるのも有効です。HEPAフィルター搭載の高性能空気清浄機がおすすめです。
・アレルゲンは空気中を浮遊するため、こまめな換気を行いましょう。
③ ペットの清潔を保つ
・ペットのブラッシングは屋外で行い、室内に毛が舞わないようにしましょう。ブラッシングをするのはアレルギー症状のない家族に手伝ってもらうのが理想的です。
・週1回の入浴でアレルゲンを減らせるという報告もありますが、ペットの種類や体調によって負担になる場合もあるため、獣医師と相談しましょう。
・ペットを触った後は、必ず手を洗い、アレルゲンを体から取り除きましょう。
④ 生活スタイルを見直す
・ストレスや睡眠不足は、免疫システムのバランスを崩し、アレルギー症状を悪化させる要因となります。規則正しい生活を心がけましょう。
・免疫機能を正常に保つために、ビタミンやミネラルを豊富に含むバランスの取れた食事を心がけましょう。

医療機関でのアレルギー治療法
生活習慣の改善だけでは症状がコントロールできない場合は、医療機関での治療を検討しましょう。
アレルギー科や内科を受診し、アレルギー検査を受けて、何にアレルギーがあるのかを正確に把握することが重要です。
症状を軽減するために、医師の処方により以下のような治療を受けることができます。
① 抗アレルギー薬の使用
・抗ヒスタミン薬やロイコトリエン拮抗薬を定期的に使用することで、くしゃみ・鼻水・目のかゆみを抑えることができます。
・吸入ステロイド薬は、喘息や咳の症状を抑えるのに有効です。
② アレルゲン免疫療法(舌下免疫療法)
現在、日本ではスギ花粉やダニに対する舌下免疫療法が一般的ですが、ペットアレルギーに対する免疫療法も一部の医療機関で試験的に行われています。
保険適用外であることが多いため、費用や効果をよく確認しましょう。

同居前にできること
ペットと暮らし始める前に、以下を試してみると良いでしょう。
① トライアル期間を設ける
友人や保護団体から一時的にペットを預かり、1~2週間生活してみて症状の出方を確認する。
② アレルゲン検査を受ける
血液検査や皮膚テストで、自分がどの程度アレルギーを持っているかを確認しておくと、事前の対策が立てやすくなります。

アレルギーと賢く付き合い、幸せなペットライフを
「我慢」ではなく「共存の工夫」が大切です。
ペットとの生活は癒しや安心感をもたらしますが、健康を損ねてしまっては本末転倒です。
症状が悪化したら、無理せず医師に相談し、時には生活スタイルを見直す勇気も必要です。
アレルギーがあっても、ペットとの暮らしをただちに、あきらめる必要はありません。
「アレルゲンを寄せ付けない住環境づくり」と「アレルゲンを減らすペットケア」が対策の二大柱です。
そして、何よりも大切なのは、無理をせず、自分の体と向き合いながら、ペットとの心地よい距離感を見つけることです。
参考文献
日本アレルギー学会
アレルギー疾患の手引き
