この記事の著者

【氏名】伊藤たえ(脳神経外科医)
【経歴】
2004年3月 浜松医科大学医学部卒業
2004年4月 浜松医科大学付属病院初期研修
2006年4月 浜松医科大学脳神経外科入局
2013年7月 河北総合病院 脳神経外科 勤務
2016年9月 山田記念病院 脳神経外科 勤務
2019年4月 菅原脳神経外科クリニック 勤務
2019年10月 医療法人社団赤坂パークビル脳神経外科
菅原クリニック東京脳ドック 院長
【専門】
日本脳神経外科専門医 日本脳卒中学会専門医
【資格・免許】
医師免許
ニュースなどで「OTC」という言葉を、最近よく見聞きすることはありませんか?
OTCとは “Over The Counter”(カウンター越しに)の略で、薬局で医師の処方箋なしに購入できる医薬品、つまり市販薬を指します。
体調が少し悪いけれど、病院に行くほどではないときや、忙しくて受診の時間が取れないときなど、ドラッグストアでOTC薬を手に取る人も多いでしょう。
中には、病院で処方される薬と同じ成分や効能を持つものもあります。
一方で、OTC薬と同じ成分を含む処方薬は「OTC類似薬」と呼ばれます。
最近では、政府の「骨太の方針2025」で、2026年度から一部のOTC類似薬を保険適用外にする見直しが盛り込まれ、議論が進められています。
OTC薬は、医師の処方箋がなくても手軽に購入でき、健康を守るうえでとても役立ちます。
ただし、その手軽さゆえに、誤った使い方や知識不足から思わぬ健康被害につながることもあります。
今回は、OTC薬を安全で効果的に使うためのポイントをわかりやすくご紹介します。
OTC薬の特徴
OTC薬には、風邪薬、痛み止め、胃腸薬、便秘薬、アレルギー薬など、さまざまな種類があります。
もともと医師の処方が必要だった薬が、長年の安全性データをもとに一般用として認められたものも多く、適切に使えばとても頼もしい存在です。

ただし、「自分で判断して使える」という利便性の裏にはリスクも隠れています。
OTC薬の選び方
薬を選ぶときは、パッケージの宣伝文句だけに頼らないことが大切です。
まずは「症状の背景にどんな原因があるのか」を考えてみましょう。
原因に合った薬を選ぶことが、正しいセルフケアの第一歩です。

もうひとつ大切なのが、配合成分の確認です。
特に気をつけたいのは、「複数の薬に同じ成分が入っている」場合です。
たとえば、「熱が出たから解熱剤を飲み、さらに風邪薬も飲んだ」というとき、両方にアセトアミノフェンなど同じ成分が含まれていると、過剰摂取になることがあります。
その結果、肝臓の働きに影響が出たり、重い副作用を引き起こすおそれもあります。
購入前にはパッケージや説明書で「成分名」を確認し、重なりがないかチェックしましょう。

薬剤師に相談する習慣を
初めて使う薬を選ぶときや、持病がある人、妊娠中・授乳中の人は、薬剤師に相談するようにしましょう。
薬剤師は市販薬の専門家です。症状や持病、他の薬との飲み合わせを確認しながら、あなたに合った薬を提案してくれます。
「市販薬だから大丈夫」と思わず、購入前にひとこと相談することが、安全に使うための近道です。

副作用について知っておく
薬は正しく使えば心強い味方ですが、副作用についても理解しておくことが大切です。
薬の効果と副作用は表裏一体。体の一部だけでなく、全身に影響することもあります。
たとえば、
・抗ヒスタミン成分を含む薬では、眠気や口の渇きが出ることがあります。
・便秘薬を長く飲み続けると、腸が薬に慣れてしまうことがあります。
・解熱鎮痛薬は、胃を荒らしたり、腎臓の機能に影響を与えることがあります。

また、高齢の方は代謝や排泄の力が落ちているため、少量でも副作用が出やすくなります。
妊婦さんや授乳中の方は、赤ちゃんへの影響を考えて特に慎重に内服を検討しましょう。
服用後に異変を感じたら、すぐに医師や薬剤師に相談しましょう。
全身に発疹が出る、顔が腫れる、息苦しさがあるときは、重いアレルギー反応の可能性があります。
また、皮膚や白目が黄色くなる、強いだるさが出る場合は、肝臓のトラブルのサインかもしれません。
こうした症状が出たときは、すぐに薬の服用をやめ、医療機関を受診してください。
正しく使えば頼もしい味方
OTC薬は、医療機関を受診するまでの一時的なサポートとしてとても便利です。
ただし、「薬はあくまで症状を和らげるもので、病気を根本から治すものではない」という点を忘れないようにしましょう。
「早く治したいから多めに飲もう」「効果が切れた気がするから早めに飲もう」といった自己流の使い方は禁物です。
添付文書にある用法・用量・服用間隔は、安全で効果的に使うための大切なルールです。
正しい知識を持って上手に付き合えば、市販薬はあなたの健康を支える心強いパートナーになります。
手軽さの裏にあるリスクを理解し、「賢いセルフメディケーション」を心がけていきましょう。
