この記事の著者

【氏名】伊藤たえ(脳神経外科医)
【経歴】
2004年3月 浜松医科大学医学部卒業
2004年4月 浜松医科大学付属病院初期研修
2006年4月 浜松医科大学脳神経外科入局
2013年7月 河北総合病院 脳神経外科 勤務
2016年9月 山田記念病院 脳神経外科 勤務
2019年4月 菅原脳神経外科クリニック 勤務
2019年10月 医療法人社団赤坂パークビル脳神経外科
菅原クリニック東京脳ドック 院長
【専門】
日本脳神経外科専門医 日本脳卒中学会専門医
【資格・免許】
医師免許
お酒の席は、気の合う仲間と語り合い、仕事の疲れを癒す大切な時間です。
しかし、翌朝にひどい頭痛や吐き気、だるさといった二日酔いに悩まされた経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。
二日酔いは単なる「飲みすぎの代償」ではなく、体からの立派なSOSサインです。
正しい知識と少しの工夫で、二日酔いを防ぎ、もしなってしまったとしても、その苦しみから早く脱出することが可能です。
今回は、二日酔いになりにくいお酒の飲み方と、なってしまった場合の適切な対処法について、医学的な根拠に基づいてわかりやすく解説します。
二日酔いはなぜ起きる?
二日酔いの主な原因は、アルコールが分解される過程で生じるアセトアルデヒドという有害物質です。
アセトアルデヒドは、さらに分解され、最終的に、水と二酸化炭素に分解されて体外へ排出されます。しかし、お酒を飲みすぎると、アセトアルデヒドの分解が追いつかなくなり、体内に蓄積されてしまいます。
このアセトアルデヒドが、頭痛や吐き気、動悸、だるさなど、いわゆる「二日酔い症状」を引き起こします。
さらに、アルコールの利尿作用によって脱水状態になることも、頭痛の原因になります。

また、肝臓がアルコール分解に集中し、糖の代謝が後回しになることで低血糖になり、だるさや集中力の低下が起こることもあります。
アルコールが、直接、胃を荒らすことも、吐き気の原因となります。 アルコールにより、深い眠りが妨げられ、疲れがとれにくくなることも関与します。
二日酔いになりにくい「賢い飲み方」
二日酔いを防ぐポイントを説明します。
空腹時に飲むと、アルコールが急速に吸収されてしまい、血中アルコール濃度が急上昇します。
チーズや牛乳など、胃に粘膜を張るような乳製品、またはタンパク質や脂質を含む食べ物を少量でも摂っておきましょう。
ウコンに含まれるクルクミンは、肝機能の働きをサポートするので、補助的に摂取するのも良いでしょう。

アルコールには強い利尿作用があるため、気づかないうちに脱水状態になります。
お酒を飲んでいる間に、水やスポーツドリンクをこまめに挟むことが非常に大切です。特に、チェイサーとして水を飲む習慣をつけましょう。
短時間に大量に飲酒すると、肝臓の処理能力を超えてしまい、アセトアルデヒドが蓄積しやすくなります。
ゆっくり、適量を心がけましょう。自分のペースで、周りに流されないことが重要です。
枝豆、豆腐、チーズ、鶏肉など、タンパク質が豊富な食材は、肝臓の働きを助けます。
また、豚肉などに多く含まれるビタミンB1は、アルコールの代謝に不可欠な栄養素ですので、つまみを選ぶ際に意識しましょう。
揚げ物などの脂質の多い食事は、胃腸に負担をかけ、消化を遅らせます。
お酒と一緒に摂ると、さらに胃もたれや吐き気の原因となることがあるので、控えめにしましょう。
就寝前にコップ1〜2杯の水を飲むだけでも、翌朝の体調はかなり違います。

二日酔いになってしまったら? 正しい対処法
予防に努めても、二日酔いになってしまうことはあります。
そんな時に、少しでも早く楽になるための対処法をご紹介します。
二日酔いの一番の原因である脱水状態を改善するために、まずは水分補給が必要です。
ミネラルや電解質が含まれた経口補水液やスポーツドリンクは、体の水分バランスを効率よく回復させてくれます。
吐き気で固形物が食べられない場合でも、温かい味噌汁やコンソメスープは、水分と塩分を同時に補給できます。
低血糖になっていることが多いため、バナナや果物、お粥、うどんなど消化の良い炭水化物を摂りましょう。
糖分を補給することで、だるさや集中力の低下を改善できます。

「迎え酒をすれば治る」という民間療法もありますが、これは一時的に麻痺させるだけで、根本的な解決にはなりません。
むしろ、アルコール依存症の入り口となる危険な行為です。
ぬるめのお湯にゆっくり浸かることで、血行が促進され、アルコールやアセトアルデヒドの代謝を助けます。
ただし、無理は禁物です。脱水症状が悪化する可能性もあるため、水分補給をしながら行いましょう。
頭痛がひどい場合は、アセトアミノフェンを主成分とする市販薬を服用しましょう。
胃に負担をかけることがあるため、空腹時の服用は避けましょう。

アルコールを分解し、体を回復させるには時間が必要です。
無理をせず、しっかりと休養をとることが何よりの「薬」です。
「これって二日酔い?」と思ったときに注意すべき症状
以下の症状がある場合、単なる二日酔いではなく、アルコール中毒や急性膵炎などの重篤な疾患の可能性もあるため、速やかに医療機関を受診してください。
- 意識がもうろうとする
- 嘔吐が止まらない
- 激しい腹痛・背中の痛み
- 血圧低下、冷や汗、動悸

さいごに
お酒は「百薬の長」とも言われますが、過ぎれば体に害を及ぼす毒にもなりえます。
二日酔いは、体が「これ以上、アルコールを摂取しないで」と警告を発しているサインです。
飲み方を工夫することで、翌朝の自分に後悔しない、健康的なお酒との付き合い方ができます。
