この記事の著者

【氏名】伊藤たえ(脳神経外科医)
【経歴】
2004年3月 浜松医科大学医学部卒業
2004年4月 浜松医科大学付属病院初期研修
2006年4月 浜松医科大学脳神経外科入局
2013年7月 河北総合病院 脳神経外科 勤務
2016年9月 山田記念病院 脳神経外科 勤務
2019年4月 菅原脳神経外科クリニック 勤務
2019年10月 医療法人社団赤坂パークビル脳神経外科
菅原クリニック東京脳ドック 院長
【専門】
日本脳神経外科専門医 日本脳卒中学会専門医
【資格・免許】
医師免許
皆さんは、ダイエット中になんだか疲れやすくなった、風邪をひきやすくなった、と感じたことはありませんか?
「ダイエットは健康にいいはずなのに…」そう思われるかもしれませんが、実はそのダイエット方法が、逆に、免疫力を低下させている可能性があるのです。
今回は、なぜダイエットで免疫力が下がるのか、その仕組みと対策について解説します。
免疫システムとは?
免疫については、風邪の民間療法などでもお話してきましたが、今回も簡単にご説明します。
免疫とは、細菌やウイルスなどの病原体から、私たちの体を守るための防衛システムです。
このシステムは、白血球や、サイトカインと呼ばれる情報伝達物質など、さまざまな細胞や物質が複雑に連携して成り立っています。
このシステムが正常に機能することで、私たちは健康を保つことができるのです。
ダイエットが免疫力を低下させる理由
ダイエットが免疫力を低下させる原因は、主に以下が考えられます。
栄養不足による免疫低下
無理な食事制限は、ビタミン、ミネラル、タンパク質といった、免疫細胞の生成や機能維持に欠かせない栄養素の不足を招きます。
例えば、免疫細胞の主成分であるタンパク質が不足すると、新しい免疫細胞が作られなくなり、免疫システム全体が弱まります。
また、ビタミンやミネラルなどの栄養素が足りなくなると、免疫細胞が十分に力を発揮できなくなります。
結果として病原体への抵抗力が落ち、感染症にかかりやすくなっててしまうのです。

エネルギー不足による体力低下
過度の食事制限をすると、基礎代謝を維持するエネルギーが不足します。
筋肉量が減少し、体温維持や免疫細胞の活性化に必要なエネルギー供給が滞ります。
体温が下がると免疫細胞の働きも鈍くなり、ウイルスが繁殖しやすい状態になります。

ホルモンバランスの変化
急な体重減少は、心身に大きなストレスを与えます。ストレスを感じると、体はコルチゾールというホルモンを分泌します。
コルチゾールの分泌量が慢性的に増えると、免疫細胞の働きを妨げ、免疫力を低下させることが知られています。
さらに女性の場合、エストロゲンの低下によって免疫調整機能が乱れ、感染症に対する抵抗力が下がることがあります。
疲労と睡眠不足
ダイエットのために食事を抜いたり、運動量を急激に増やしたりすると、体が疲労困憊し、睡眠不足に陥りやすくなります。
睡眠中には、免疫細胞が修復され、サイトカインという免疫を調整する物質が分泌されます。
しかし、睡眠が不足すると、これらのプロセスが十分に機能せず、免疫力が低下します。
特に、風邪やインフルエンザなど、ウイルス性疾患に対する抵抗力が著しく落ちることが知られています。

健康的に減量し、免疫力を高めるために
では、どうすれば健康を損なうことなく、理想の体を手に入れることができるのでしょうか?
以下のポイントを実践することで、免疫力を維持しながら安全にダイエットを進めることができます。
栄養バランスの取れた食事
無理な食事制限はせず、「まごわやさしい」など、バランスの取れた食事を心がけましょう。
- ま (まめ): 豆腐、納豆、豆乳など、良質なタンパク質の供給源。
- ご (ごま): ごま、ナッツ類など、ビタミンEやミネラルが豊富。
- わ (わかめ): 海藻類は、ミネラルや食物繊維が豊富。
- や (やさい): 旬の野菜をたっぷり摂り、ビタミンや食物繊維を補給。特に緑黄色野菜は免疫力アップに効果的です。
- さ (さかな): 魚のタンパク質は消化吸収が良く、また、DHAやEPAなどの不飽和脂肪酸も含まれます。
- し (しいたけ): きのこ類は食物繊維やビタミンDが豊富。
- い (いも): 炭水化物として、適量を取り入れることでエネルギー源になります。

適度な運動
有酸素運動と筋力トレーニングをバランス良く取り入れましょう。過度な運動は逆に免疫を抑制します。
ウォーキング、ジョギング、水泳などの有酸素運動は、血行を良くし、免疫細胞の活動を活発にします。
また、筋力トレーニングは基礎代謝を上げ、太りにくい体を作ります。
無理のない範囲で始めましょう。今まで運動習慣のなかった人は、週に2~3回、30分程度の運動から始めるのがおすすめです。
減量は穏やかに
1か月あたり、体重の5%以内の減量を目安としましょう。短期間での過度な減量は避けることが重要です。
急激な体重減少は、体に「飢餓ストレス」として認識され、免疫抑制作用を強めます。

質の良い睡眠の確保
1日7〜8時間の睡眠を目標に、十分な睡眠時間を確保しましょう。
寝る前にスマートフォンやPCを見るのを控えたり、ぬるめのお風呂に入ったりするなど、睡眠の質を高める工夫をすることも大切です。

ストレス管理
ダイエットは、思うように結果が出ないとストレスを感じやすいものです。趣味の時間を持ったり、友人と話したり、リラックスできる時間を作りましょう。
また、ストレスを感じたら、深呼吸をする、ストレッチをするなど、自分なりの解消法を見つけることが大切です。
まとめ
ダイエットは、健康な体を手に入れるための素晴らしい手段です。
しかし、無理な方法で減量しようとすると、かえって体調を崩し、免疫力まで低下させてしまう可能性があります。
もしも、ダイエット中に体調不良を感じたり、不安な点があれば、自己判断で無理をせず、専門医や管理栄養士に相談することをおすすめします。
参考文献
- 大野 宏, 長村 義之. “免疫と栄養.” 日本栄養・食糧学会誌, 64巻5号, 2011年,
- 近藤 和也. “ストレスと免疫.” 日本農薬学会誌, 28巻2号, 2003年
