この記事の著者

【氏名】伊藤たえ(脳神経外科医)

【経歴】
2004年3月 浜松医科大学医学部卒業
2004年4月 浜松医科大学付属病院初期研修
2006年4月 浜松医科大学脳神経外科入局
2013年7月 河北総合病院 脳神経外科 勤務
2016年9月 山田記念病院 脳神経外科 勤務
2019年4月 菅原脳神経外科クリニック 勤務
2019年10月 医療法人社団赤坂パークビル脳神経外科
菅原クリニック東京脳ドック 院長

【専門】
日本脳神経外科専門医  日本脳卒中学会専門医

【資格・免許】
医師免許

午後に眠気を感じる方は多いと思います。特にランチの後は、どうしようもなく眠くなることも。

そう感じたとき、多くの人はコーヒーでカフェインを摂ったり、体を動かして眠気を遠ざけようとするかもしれません。

でも、もし、たった15〜20分、目を閉じて体を休めるだけで、午後のパフォーマンスが劇的に向上するとしたら、どうでしょうか?

今回は、「昼寝」が、実は素晴らしい「脳のメンテナンス」であることについて、できるだけわかりやすくお話ししたいと思います。

昼寝は脳にどう影響するのか

昼寝は認知機能に対して改善効果を発揮することが、科学的に示されています。

注意力・覚醒度の改善

10~30分程度の短時間の昼寝は、覚醒度や注意力、反応速度を改善することが分かっています。

昼食後眠くなるのは、血糖値の変動だけでなく、午前中に集中力を使い果たした影響もあります。

昼寝によって、脳の疲労が軽減され、集中力や注意力が回復します。これにより、午後の仕事や勉強の効率が格段に上がります。

クリエイティブな発想は、脳がリラックスしている状態だからこそ生まれます。

昼寝は脳のリラックス効果があります。意識的に考えていることから解放され、脳が自由に情報を組み合わせる時間を与えられます。

これにより、午前中に考え込んでいた問題の、思いもよらない解決策や、斬新なアイデアがひらめきやすくなります。

記憶・学習能力の向上

昼寝は記憶を保持し、定着を促すことが分かっています。

これは、睡眠中に脳の海馬という部分が、新しい情報を整理し、大脳皮質へと送り込む働きが活発になるためです。

昼寝によって、午前中に勉強したことや、会議で得た新しい情報が脳に定着しやすくなるでしょう。

ストレスの軽減

睡眠不足になると、イライラしたり、感情的になりやすくなることは、皆さん経験があると思います。

これは、睡眠が感情を司る機能を調整しているからです。

昼寝をすることで、この感情調整機能がリセットされ、精神的な安定につながります。

ストレスを感じやすい現代社会において、昼寝は心の健康を守るための、非常に有効な手段と言えるでしょう。

脳の保護的効果の可能性

30分未満の昼寝を週数回行うと、認知機能低下のリスクが低減する可能性が示唆されています。

アルツハイマー型認知症の原因物質であるアミロイドβは、睡眠で排泄が促されます。

昼寝によっても、疲労した神経細胞を回復させることができ、この短い休息が、脳のパフォーマンスに影響することが考えられます。

昼寝の注意点

30分を超える昼寝では、寝起き後、ぼんやり感じてしまうこともあるので、短時間にとどめるのが良いでしょう。

1日1時間以上の昼寝や、週に複数回の長時間昼寝を行う高齢者では、認知症発症リスクが増加するという報告があります。

長時間の昼寝は、夜間睡眠の質を低下させることもあります。

日中に異常なほど眠たくなる場合は、睡眠時無呼吸症候群などの病気が潜んでいることもあるので注意が必要です。

良い昼寝とは?

せっかく昼寝をするなら、効果を最大限に引き出したいですよね。良い昼寝には、いくつかのポイントがあります。

時間は「15〜20分」がベスト

これ以上長く寝てしまうと、深い眠りに入ってしまい、起きたときに頭がぼーっとする「睡眠慣性」という状態に陥りやすくなります。

目覚ましをセットして、浅い眠りのうちに起きるのがコツです。

時間帯は「午後3時まで」

夕方以降の昼寝は、夜の睡眠の質を下げてしまう可能性があります。

理想は、ランチ後の12時〜14時頃です。

姿勢は「座ったまま」でもOK

横になれない状況でも、机に突っ伏したり、椅子の背もたれにもたれたりするだけでも効果があります。

完全に横になってしまうと、深い眠りに落ちやすくなるので、むしろ座ったままで少し休むくらいが、良い昼寝には適していると言えるかもしれません。

昼寝の前に「カフェイン」を摂る

昼寝の前にコーヒーや緑茶などカフェインが含まれた飲み物を一杯飲むと、目覚めがスッキリします。

カフェインの効果は、摂取してから約20〜30分後に現れ始めるので、昼寝から目覚めるタイミングで、ちょうど効果が発揮され、シャキッと起きることができるのです。

これを「カフェインナップ」と呼びます。

まとめ

昼寝は、決して「サボり」ではありません。むしろ、午後の生産性を高め、脳のリフレッシュにも効果的です。

皆さんの周りにも、昼寝を習慣にしている人はいませんか?

その人たちは、無意識のうちに、脳のパフォーマンスを最大限に引き出す方法を実践しているのかもしれません。

毎日の生活に、短い昼寝を「戦略的な休憩」として取り入れてみてください。きっと、皆さんの仕事や勉強、そして日々の生活にプラスに働くでしょう。

参考文献

Systematic review and meta-analyses on the effects of afternoon napping on cognition
Sleep Med Rev. 2022 Oct:65