この記事の著者

【氏名】伊藤たえ(脳神経外科医)

【経歴】
2004年3月 浜松医科大学医学部卒業
2004年4月 浜松医科大学付属病院初期研修
2006年4月 浜松医科大学脳神経外科入局
2013年7月 河北総合病院 脳神経外科 勤務
2016年9月 山田記念病院 脳神経外科 勤務
2019年4月 菅原脳神経外科クリニック 勤務
2019年10月 医療法人社団赤坂パークビル脳神経外科
菅原クリニック東京脳ドック 院長

【専門】
日本脳神経外科専門医  日本脳卒中学会専門医

【資格・免許】
医師免許

私の普段のお仕事は、脳神経外科医として脳卒中や頭痛、認知症の患者さんの治療に当たることですが、それらとともに力を入れている分野として、予防医療があります。

その一環で、数年前から私の勤務先クリニックでは、がん検診も行っています。

認知症患者さんの増加も大きな問題となっていますが、がん患者さんも増えており、対策が必要と感じているからです。

がんは、1981年以降、日本における死因の第1位をずっとキープしているのです。なんと、年間約38万人にも及ぶ人が、がんにより命を落としているのです。

それに加えて、毎年約100万人の人が新たにがんと診断されています。これは実に日本人の2人に1人が一生のうちにがんにかかるということです。

がん医療は急速に進歩しており、治るがんも増えてきました。しかし、やはりがんにならないのが一番です。

そこで、今回は、がんを予防するための生活習慣についてお話していきたいと思います。

がんについて

まずは、がんについて簡単にご説明します。

私達の身体は多くの細胞からできており、細胞は分裂と増殖、そして死滅を繰り返しながら、正常な状態を保っています。

このサイクルが壊れ、体内の細胞が異常に増えてしまうことによって、周りの組織を壊したり、他の部位に転移したりする病気が、がんです。

細胞が異常に増えるのは、遺伝子の変化が主な原因ですが、生活習慣や環境要因も大きく影響します。

がんになる原因は、単一のものではなく、多因子が関与してきます。そのため、ご高齢になればなるほど、だれでも癌になる確率が高くなります。

予防でどれくらいの割合の人が、がんにならずに済むのか

2015年に、日本人のがん患者のうち、どれくらいの割合の人が、「もし特定の要因を持っていなかったら、がんにならずに済んだか」を試算した研究があります。

それによると、男性のがんの43%、女性のがんの25%は、予防可能な生活習慣や感染が原因で起こっていることがわかりました。

つまり、それらの要因を取り除けば、がん患者の男性は43%、女性は25%、がんにならずに済んだと推計されたということです。

これはいかに予防が重要かを示しています。

がんの予防に重要な6つの要因

日本人のがん予防にとって特に重要なものは「喫煙」、「飲酒」、「食生活」、「身体活動」、「体重」、「感染」の6つです。

では、それぞれの要因について説明していきます。

喫煙

タバコが、がんの原因になることは最近ではよく知られています。

男性では23.6%、女性では4.0%のがんが、喫煙に寄与していると報告されています。

タバコのパッケージには、警告表示の義務があり、表と裏それぞれに、健康被害について大きく表示されています。

がんだけでなく、心筋梗塞など虚血性心疾患、脳卒中になる危険性もあります。

タバコを吸っている人は禁煙が必要ですし、吸わない人も他人のタバコの煙を避けるようにしましょう。

飲酒

飲み過ぎはがんを引き起こす原因となります。

飲酒量を減らすほど、がんのリスクは低下します。

がん予防のためには、飲酒をしないことがベストです。

飲まない人や飲めない人は無理に飲まないようにしましょう。

食生活

バランスの良い食事が大切です。

塩分のとりすぎは、がんにも関与しますので、塩分の摂取は最小限にしましょう。

食塩は、1日あたり男性は7.5g未満、女性は6.5g未満が推奨されています。

野菜や果物は積極的に摂ることが推奨されています。 あつすぎる食べ物や飲み物も、癌の原因になるため、避けるようにしましょう。

身体活動

日常生活を活動的に行いましょう。

在宅勤務が増えていますが、運動不足にならないように、心がけなければなりません。

ウォーキング、あるいはそれと同等以上の強度の運動を1日60分以上おこないましょう。

息がはずみ、汗をかく程度の運動を1週間に60分程度、おこなうことが良いとされています。

適正な体重

太り過ぎも痩せ過ぎもよくありません。

中高年の男性の適正なBMI値は21~27、中高年の女性の適正なBMI値は21~25です。

この範囲内になるように体重を管理しましょう。

BMI値(Body Mass Index 肥満度)は、身長と体重で、以下のように計算します。

BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)

感染

感染もがんへの寄与が大きく、男性では18.1%、女性では14.7%のがんが感染と因果関係があるとされています。

肝炎ウイルスは、肝臓がんの原因になります。肝炎ウイルスの感染の有無を知り、感染している場合は治療しましょう。

ピロリ菌の感染は胃がんに繋がります。ピロリ菌感染の有無を知り、感染している場合は除菌を検討しましょう。定期的に胃がん検診を受けることが望ましいです。

子宮頚がんはヒトパピローマウイルスが原因となります。ワクチンで予防できるがんです。該当する年齢の人は子宮頸がんワクチンの定期接種を受けることが望ましいです。子宮頚がんの検診も定期的に受けましょう。

以上が、がんを予防するための生活習慣です。日頃から心がけて、ぜひ、がんにならない生活を送ってください。

参考文献

がん診療2025  日本医師会雑誌 第154巻